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社内横領[POSTED]:2018-07-09
(1)発覚の端緒
会社が、社内の不正・不祥事に気づく手がかり、すなわち「端緒」には様々なものがあります。
例えば、企業が独自に内部通報窓口を設け、企業の役職員その他関係者が不正等を通報する内部通報制度により発覚する場合です。内部通報制度は「ヘルプライン」や「ホットライン」等様々な名称で呼ばれ、現在多くの企業で設置が進んでいます。今後も内部通報制度により発覚するケースが増えるのではないかと考えられます。
また、企業が独自に社内の監査等を行う内部監査、税務当局による税務調査、その他行政官庁による調査、取引先からの情報、消費者からの情報提供・クレーム、同業他社の法令違反を契機とした社内調査からも、社内の不正・不祥事が発覚することがあります。
(2)社内横領への対処法
ア 初期対応
不正・不祥事に気づいた時点でその全貌、社内外への影響を全て把握することは困難であり、社内が混乱した状況で、対応方針を決め、対外的に公表すると場当たり的な対応となり、状況を悪化させたり、問題が複雑化したりする可能性が高くなります。
また、そのような不完全な情報が社内に拡散すると、社内の意思決定に悪影響を及ぼし、迅速かつ適切な判断ができなくなります。
そのため、早急に以下の対応策を講じる必要があります。
① 社内体制(緊急対策チーム)の構築
不正調査を含め今後の対応方針の決定をするためにも、いち早く疑惑の不正・不祥事に対処する体制(「緊急対策チーム」)の構築が必要となります。緊急対策チームには不祥事に対応する部署のメンバーの他に、弁護士や有識者などもメンバーに加えることを検討します。
そして、現時点で明らかになっている情報を集約して「情報ファイル」(「情報マスター」)にまとめ一括的に管理し、さらに、情報ファイルに集まった情報をまとめた「ポジションペーパー※」を作成します。
この社内体制のもとで、ポジションペーパーに基づき、不正調査の要否・範囲・程度、不正行為への関与が疑われる関係者の処遇、関係省庁への報告、対外的な公表の時期など企業としての対応方針を決めることになります。対応方針を決める際には、弁護士によるリーガルチェックを忘れず行います。
※ポジションペーパー(PP):
関連部署からの情報を集約し、その事案全体を文章化して整理し評価を加えたものです。時系列に情報を整理したもので、その後の様々な書類を作成する際の一次資料になります。ポジションペーパーを作成した上で、これに基づき記者会見時の冒頭に読み上げる文書、記者会見での巣次応答、監督官庁向けの報告書、取引先・消費者団体などへの報告書、社内通達文書などを作成します。
② 被害等の拡大防止の応急措置
不正調査に先立ち、または並行して、被害拡大防止のための応急措置が必要な場合があります。不正調査等しているうちにさらに被害が拡大し、ダメージコントロールが果たせなくなる可能性があるためです。
また、現時点での不確定情報が社内に拡散し従業員の無用な動揺を招いたり、外部に漏えいし根拠のない風評被害などにさらされたりしないためにも、社内体制のもとで、現時点までの情報を集約するなど情報統制を徹底します。
さらに、不正調査前に証拠が隠滅・紛失するのを防止するため、資料の収集保全、証拠隠滅の禁止措置、関係者からの供述書の取得、関係者の自宅待機命令なども実施します。
初期対応での応急措置の内容については、事件の内容によって異なりますので、弁護士に相談して進める必要があります。
イ 不正調査の実施
① 調査チームの立ち上げ
不正調査の第一歩として、調査を実施する調査チームを立ち上げます。
一般的に、社内調査チームまたは第三者員会のいずれかを選択することになります。
なお、どのような調査チームが望ましいのかについては、不正行為や事件の内容によって異なりますので、弁護士に相談して進める必要があります。
①-1 社内調査チーム
社内調査チームについては、誰を加えるべきか、誰を加えるべきではないか、社外専門家(弁護士等)を関与させるべきかなど検討する必要があります。
通常は、法務部、コンプライアンス部、人事部、総務部など社員に関する不祥事に対処することが予定されている部署を中心に構成されます。また、調査費用の支払など経理業務がかかわる場合は経理関係者に入ってもらうことがあります。
しかし、企業によっては部門ごとに取引慣習や日常業務が異なることが多く、不正・不祥事の舞台となった部門・部署の内情に詳しい人が調査チームに入っていないと、調査方法を間違えたり、調査がスムーズに進まなかったりすることがありますので、必要に応じて内情に詳しい人物に入ってもらうことも検討します。
ただ、内情に詳しい人物の人選にあたっては、不正行為に関与していないことを確認するなど細心の注意が必要です。
不正行為の内容によっては、外部の専門家を加えることを検討します。専門的な知識やノウハウを持つ弁護士や公認会計士などに入ってもらうことで、調査を行いながら同時にリーガルチェック等を受けることができるため調査がスムーズに進むことが期待できます。また、不正行為の温床ともなった企業風土の分析や社員へのヒアリングの場面などで客観的視点からの調査も期待できます。
①-2 第三者委員会
ステークホルダーや世間が関心を示すような不正事件の場合、不正調査の信頼性を高め、ひいては企業の信頼回復を図るために、調査チームとして、第三者委員会を選択することがあります。
外部専門家を構成員とする第三者委員会が調査を実施することにより、調査の独立性、中立性をアピールし、また、調査結果に対する信頼性を高め、ステークホルダーや社会に対し説明責任を果たすことができると考えられるからです。
第三者委員会を選択する法的義務はありませんので、企業側が自らの判断で決めることになります。
第三者委員会は、3名以上を原則とします。一般的に弁護士に依頼することが多く、不祥事の内容によっては、公認会計士や学者その他有識者を入れることもあります。
委員の人選については、独立性・中立性を確保するために、企業と利害関係を有しない者を選択することになります。例えば、顧問弁護士や継続的に業務を受任している弁護士は控えるべきでしょう。
なお、日本弁護士連合会が2010年7月15日に公表した「企業等不祥事における第三者委員会ガイドライン」によれば、企業と利害関係を有する者は第三者委員会の委員に就任できないとされています。
② 調査の実施と報告
不正事実を認定するための資料、不正行為者を特定するための資料、不正行為者の責任を示す資料、調査対象者の財産関係や身分関係を調査するための公的資料(不動産登記簿謄本など)などを収集し、また、不正行為者や関係者に対しヒアリングを実施し、不正・不祥事の全貌を明らかにします。
不祥事の内容によってその調査範囲や調査資料は異なりますが、不正調査後に、不正行為者への損害賠償請求や刑事告訴を予定している場合は、二度手間を防ぐために、刑事手続きや裁判での利用も前提とした調査を行う必要があります。
調査終了後、調査チームは企業(緊急対策チーム)に対し調査結果を報告するため、調査報告書を作成します。
ウ 再発防止策の策定・被害者への対応方針の決定
調査結果により導かれた不正行為の発生原因を検討し、再発防止策を策定します。この再発防止策は、具体的かつ相互牽制効果(不正を見抜く他人の目)を確保した防止策でなければ取引先や顧客等を納得させることはできません。
また、不正行為による被害者が存在する場合は、被害者への補償内容などその対応方針についても決定します。
エ 関係者の処分等
不正行為者やその協力者に対しては、懲戒処分など厳正な姿勢で対処しなければなりません。厳正に処分することで、世間やステークホルダーに対して誠実な姿勢を示すだけでなく、他の社員に対しても将来的な抑止効果が期待できるからです。
なお、関係者の処分としては、上記のような雇用に関する処分のほかに、損害賠償請求や刑事告発も考えられます。
また、ウで策定し企業内でオーソライズされた再発防止策も実行します。
オ 公表
ステークホルダーへの説明義務を果たすために、調査チームによる調査報告書、再発防止策、被害者対応、関係者の処分を公表します。
なお、調査報告書は、その企業のホームページ上で公表するのが一般的です。
調査結果が社内調査チームによるものである場合、その調査結果の客観性や信用性を担保するために、事前に弁護士等を含めた第三者委員会に調査結果を検証させることが考えられます。
(3)対応実施のポイント
横領の被害総額とステークホルダーに対する説明責任や取締役の善管注意義務(会社法330条、民法644条)を考慮し、経営者、緊急対策チームがどこまで調査を行うか決定することになります。
仮に、初期対応から公表まで行うのであれば、上記のプロセスを実施することになります。
また、横領が事実であれば、弁護士に相談の上、損害賠償請求はもとより、業務上横領罪(刑法253条)として刑事告発まで実施することを検討します。
なお、不正・不祥事の情報が外部に漏れている可能性も否定できません。もし、公表前に記者から取材の申し込み等があった場合には、既に外部に情報流出していると考えた方が無難です。
そのため、記者に対しては、不正・不祥事の事実がなかったかのような回答をすると、組織ぐるみで不祥事を隠そうとしていると思われて、さらなるイメージダウンのおそれもありますので、「不正・不祥事の事実の有無等については、現在調査中であり、後日公表する予定です」といった現状に関する回答をするべきでしょう。ステークホルダーの信頼を保ち、また、客観性・公平性を担保しうる不正調査の実施・サポートから、損害賠償請求、刑事告訴まで総合的に依頼することができる弁護士に依頼することも重要です。
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