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生活保護からの暴力団排除[POSTED]:2018-07-27

暴力団員から、生活保護の申請がなされました。生活保護の申請は却下できるのでしょうか。

1.結論

生活保護の申請を行った者が暴力団員である場合、生活保護法4条1項によって規定されている保護の要件を満たしていないとし、急迫状況である場合を除き、申請は却下されるものとしています。

2.保護の補足性

生活保護法とは、憲法25条により定められている「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利(生存権)」の実現のため、「生活に困窮するすべての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的」として定められました(生活保護法1条)。

ただし、本来国民は、資産や能力を活用し、自らの力で生活を維持するということが原則となっているので、生活保護を受けるためには、本来持っている「資産」や「能力」、その他のあらゆるものを活用したとしても、最低限度の生活を送ることが望めないようであれば、初めて生活保護を受け取ることが認められるのです(保護の補足性。生活保護法4条)。

3.急迫性の例外

病気等により、緊急の保護が必要とされる場合、保護の補足性の要件に該当しなくても、必要な保護が行われるというもので(生活保護法4条3項)、特に医療扶助に関しては受けられるものと想定されます。
ただし、急迫の場合等で資力があるにもかかわらず、保護を受けた際には、保護に要した費用に相当する金額を一定の範囲において返還する必要があるとされています(生活保護法63条)。

4.厚労省通達

市民生活の安全と平穏を反社会的行為によって脅かす暴力団に対して、生活保護を適用し、国民が苦労して納めた税金によって賄われた公費を支出することは、①国民の生活保護制度に対する信頼を揺るがせ、②結果として保護費が暴力団の資金源となり、暴力団の維持存続に利用されるおそれがあると思われ、さらに社会正義において問題であるだけではなく、生活保護法4条により定められる保護の要件(補足性)を満たさないとする急迫状況である場合を除いて、保護の申請を却下するということが、厚生労働省へ通達により示されます。

つまり暴力団員は、集団的かつ常習的に暴力対策法2条1号によって規定されている暴力的不法行為等による暴力団活動に従事することで、違法または不当な収入を得ている可能性が高いと思われます。よって、
①本来であれば、正当に就労することができる能力を有していると認められるので、稼働能力における活用要件は満たさない。
②暴力団の収入に関して、生活実態の把握による資産調査では発見が困難であり、資産・収入の活用要件を満たしているという確認ができない。
これは、暴力団活動の中で得られる違法または不当な収入については、自身で福祉事務所に対する申告がなされている可能性は低く、このような収入においては、一般的に犯罪の発覚や没収を免れるために隠匿され、または資金源として暴力団に移転されることになるので、把握が困難といえるから。
とされています。

5.保護請求権無差別平等原則(生活保護法2条、憲法14条)

ここで問題となるのは、暴力団員であることが保護の要件を欠くものとして、保護申請を却下することが、平等原則に反するものではないかということになります。
これに関しては、判例・学説ともに、憲法14条に記載されている内容は、国民に対して必ずしも平等に取り扱いを行うというものを保障しているということではなく、合理的理由がない場合に差別することは禁止するということであり、国民各自の事実上の差異に相応した法的取扱いを区別することは、区別の際に合理的理由が存在する限り、憲法14条に違反しないと解釈されています。
暴力団員に対して、生活保護費を受給させないということは、以下の必要性ならびに許容性という観点からみても、合理的区別であるということがいえます(なお、違憲審査基準につき憲法14条後段列挙事由に特別の意味を認め厳格な審査基準を用いる通説は、社会的身分に後天的な地位を含ませず、後天的な地位を含め社会的身分を広く解する判例は、後段列挙事由に特別な意義を認めていないため合理性の基準を用いている)。

①暴力団員に生活保護費を受給させない必要性

暴力団員とは、集団的または常習的に暴力的不法行為等を行うことに対して、助長する可能性がある団体の構成員であり、国民や市民生活に対して、危害を加える可能性を持っている団体に自ら加入を希望している暴力団員に対して心労所得を与えるということは、就労の必要性を少なくすることで、暴力団の不法活動を助長するだけでなく、正しい勤労をするという面で阻害するものであるといえるので、このようなことを防止する必要性は高いと思われます。

また、暴力団員は所属する組織に対して、月額の一定金額を上納する必要があるので、暴力団員に生活保護費が与えられたとしても、その暴力団員が所属する暴力団あるいは上部団体に渡ることとなり、それにより、武器の購入や新規暴力団の獲得等、暴力団を維持または拡大するための資金として使用されることは明白です。本来、生活保護費は国民の血税によって賄われているものなので、国民の福祉に役立てるべき公金ですが、それが国民の福祉を害する存在である暴力団の違法な活動を援助または助長するために使われることになります。そして、公共の福祉に反するだけにとどまらず、個人の生活保障をするための生存権および生活保護法の理念に反する結果となるので、暴力団員に対して生活保護費を受給しないということの必要性は極めて高いと思われます。
実際に、生活保護費を受給している暴力団員は、一般的な組員だけでなく、暴力団組長などの幹部でも多数存在しています。

②許容性

また、現時点で暴力団であったとしても、暴力団から抜ければ、生活保護費を受け取ることが可能であり、さらに現在では、警察等によって脱退の支援体制が整えられているため、脱退届や誓約書、自立更正計画書を提出するなどの簡易的な手続を行うことで、暴力団の地位を離れることができるので、暴力団員の地位にある者であっても、生活保護費が必要な場合には手続を行うことで受給を受けることも可能となります。よって、暴力団員である間は保護費を支給しないということについても、制約として強いものではないので、区別的取扱いをすることに対しての許容性が認められるといえます(許容性の要件)。
つまり制約されているのは、暴力団員であり続けることによる利益であり、これにより得た利益が法的保護に該当しないというのは明らかです。
一方、市民生活において、危害を加える可能性がある暴力団員に所属しているにもかかわらず、福祉による不労所得を得ようと考えることは認められることではないといえます。

以上のことを踏まえると、暴力団員であること理由として生活保護を却下することは、憲法14条に反するものではなく、かつ生活保護法2条に定められている「この法律の要件を満たす限り」という解釈に適合するといえます。

6.急迫性がある場合

ただし、暴力団とはいえ、生存が危ういと思われる場合や社会通念上放置し難いと認められる程切迫していると思われる場合など、急迫状況にある場合であっても保護をしないということは、妥当とはいえません。
とはいえ、「社会通念上放置し難い」状況におかれ、かつ「生活保護をなさないことにより生じる危険が切迫している」事態にみまわれるというのは、実際に考えてみても想定できるものではないといえます。
なので、実際問題として、自力で福祉事務所を訪れることができ、さらに生活保護を受けるための申請を行う上での身体的能力を保持する者については該当しないとされることが多いです。

7.具体的運用

暴力団員からの申請を却下するための具合的運用としては、暴力団と直接対峙する受付担当者および生活受給者の家を訪問するケース・ワーカー個人の心理的負担が大きくなるため、個人の対応に任せるのではなく、組織的な対応体制を整え、暴力団員からの申請を却下する際もあくまで組織的な判断によるものであり、個人の判断ではないということを強調するよう統一することが必要となります。

また、暴力団に関する問題については、警察との連携が不可欠といえます。このような生活保護の適用については、警察庁から各都道府県警察に対して、これに対する実施機関との連携を強化するよう通達がされています。

さらに、行政機関から顧問弁護士に対して相談をする際には、通常であれば、相談について所属部署で検討の後、申請書の作成を行い、担当部局を経て、決済を得てから順番待ちをするというのが一般的でありますが、生活保護の適用を含め、緊急性が要求されることの多い行政において、不当要求が行われた場合、このような手続を省略し、弁護士が迅速に対応にあたる体制をとることで、現場担当者も冷静な対応ができます。

実際も、このようなことから、行政を対象とした暴力等に対する不当要求に関しては、弁護士会と連携を図り、かつこれに対する対処については、民暴対策の専門家でもある民暴委員会に、早急に相談を行うという体制を整えている自治体も存在します。

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