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弁護士による有効な民事事件化阻止のポイント[POSTED]:2018-07-10

(1)接近禁止の仮処分

ア 仮処分の有効性

相手の嫌がらせを弁護士が介入して止めさせることは、場合によっては真っ先に検討すべきです。
男女の恋愛関係や夫婦関係に基づく問題については、ストーカー規制法やDV防止法に基づく保護命令として接触禁止命令が発せられる場合があります。しかし、恋愛感情以外の感情のもつれに端を発するつきまとい等の嫌がらせ行為にはこのような規定による保護は及びません。 この点、民事上の人格権侵害を理由とする接触禁止の仮処分は、恋愛感情のもつれ以外から生じる嫌がらせ行為に対する対策として利用されてきた経緯があります。
具体的には、右翼の街宣車や追い込み、嫌がらせに対して弁護士が申し立てることによって、生活の平穏を取り戻します。不祥事を起こしたことの弱みに付け込まれないようにする必要があるのです。弁護士が付いている以上、不祥事を起こした弱みと、不祥事に付け込む者に対する対抗策は分けて考える必要があります。
接触してはならないという不作為を命ずる仮処分の執行方法は間接強制によりますが、仮処分が発令されたケースでは、発令自体でそれ相応の効果が表れているようです。

イ 仮処分の手続き

裁判所は、仮処分命令の申立ての目的を達するため、弁護士から事情をきいたうえで、債務者に対し一定の行為を命じ、若しくは禁止し、若しくは給付を明示、又は保管人に目的物を保管させる処分その他の必要な処分をすることができます(民事保全法24条)。
弁護士が主張する申立ての理由においては、保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性を具体的に記載し、かつ、立証を要する事由ごとに証拠を記載しなければなりません(規則13条2項)。
裁判所は、保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性に関する弁護士の主張をきいたうえで仮処分の申し立てを認めるべきか否か判断します。

ウ 禁止行為の対象および範囲

面談強要禁止(債務者は、債権者に対し、自宅又は勤務先を訪問し、電話をかけ、ファクシミリを送信し、又は手紙を出すなどの方法により、直接面談を強要してはならない)
接近・つきまとい等禁止(債務者は、債権者に対し、債権者の自宅・勤務先及びその近隣を徘徊し、債権者の身辺につきまとったり、待ち伏せしたりしてはならない)
誹謗中傷禁止(債務者は、債権者に対し、債権者の名誉・信用を毀損し、誹謗中傷する内容の文書を配布したり、ビラ貼り等をしてはならない)
平穏な生活の妨害禁止(債務者は、債権者に対し、債権者の自宅又は勤務先に電話をかけ、ファクシミリを送付し、又は手紙を出すなどの方法で、債権者の私生活の平穏を乱す行為をしてはならない) 等が考えられます。

エ 担保の提供

保全命令の担保は、違法な保全処分の執行によって債務者が被るであろう損害を担保するものです。時間的に短期間で決せられる仮処分手続で、弁護士としても十分な証拠収集は困難です。このことから一般にこの種の仮処分が無担保で発令はされていないようです。損害発生の蓋然性が低ければ、当然担保金額も低くなるという相関関係にあります。

(2)示談

ア 示談とは

示談とは裁判外において民事上の紛争を解決することです。
不祥事を起こした場合は損害賠償義務を負うことが多いはずですから、弁護士が対応することで、究極的な解決を図ります。この示談において双方ともに納得をすることが一番簡便な弁護士による事件化阻止といえます。
和解合意の書面を交わすことになるので、通常は後から裁判を起こされることはありません。一般的には裁判で解決するよりも、示談で解決する方が高額となります。弁護士が裁判をして法的権利があるか否かを審査すれば、そこまでの額を払う必要が無かったとしても、相手方に今すぐに納得して示談で済ませてもらうためには余計にお金を払うことはやむを得ません。
不祥事を起こしたり、スキャンダルに巻き込まれたりした方は、早々に弁護士が対応して解決することを希望されます。長引けばそのうちに発覚してしまうかも知れない。もうこれ以上、この問題に頭を悩ませたくない。合理的な解決方法ではないとしても、早期解決を優先する。示談とはある意味、時間をお金で買う選択をするということです。
弁護士を介して早々に示談をしてしまえば、不祥事事件が報道される可能性もつぶすことができます。たとえ周りの人間が話していたとしても、不祥事事件当事者が話さなければ、最終的には「噂」で終わります。裏付けのとれない事実を新聞やテレビでは報道できません。
また、不祥事を起こしてしまい自分に落ち度がある場合であれば、弁護士を介して示談をすることが、こちらが対応できる不祥事事件解決の最も効果のある方法です。示談成立の事実は刑事事件においても有利な情状として評価されます。

イ 示談の難易度

感情がもつれたり事件や被害回復が困難な不祥事事件では、示談の難易度が上がります。
具体的には財産が侵害されただけの不祥事事件の方が、身体を怪我させられた不祥事事件に比べて示談がしやすいのが一般的です。貞操や名誉などを傷付けられたとされる不祥事事件は、金の問題ではないとしてさらに示談は困難になります。
不祥事の被害者の属性も重要です。未成年の場合は親や親戚が示談の相手に出てくることが多く、示談は成立しにくくなります。
また、多くの人が関係すると示談が成立しづらくなります。決定権限を持っている人、一人で物事を決められる人を相手にしましょう。その意味で相手が弁護士を立てて対応する場合はある意味、話が進めやすいのです。
被害者本人と示談交渉する場合、被害者本人が誰に相談するかで交渉の進め方に問題が生じることもあります。独り暮らしの女子大生と示談交渉をしているときのことです。学生と話をしていたときは順調に話が進んだのですが、途中でご両親に相談をされた段階から話がこじれました。学生は成人で親の同意を得る必要はないのですが、だからといって親に相談するなと言うこともできません。
家族同士の意思統一に時間がかかり、弁護士とのコンタクトの窓口も父親に変更になりました。
最終的には示談が成立したのですが、一時は万事休すかというところまでいってしまったのです。交渉はまとまりそうなときに一気呵成にまとめることが鉄則です。

ウ 示談のポイント

示談のポイントは、とにかく早期に弁護士がコンタクトをとるということです。弁護士がコンタクトをとったら示談成立に向け、話を早く進めることです。
弁護士による早めのコンタクトで誠意を示すと同時に、当初は示談が断られても、気持ちの変化で示談に応じてくれる余地が残ります。気移りで示談に至る可能性を長期間にわたって残すためにも、弁護士が早めに連絡をとることが重要なのです。
弁護士と被害者との面会のアポを取り付けるまでが第一関門です。 被害者が会ってくれるということは、一貫性の法則が働きます。人間は一度、自分の意思で行動を始めた時に、途中でやめない傾向があるのです。
自分の意思で行動を始めた瞬間から、過去の自分の決断と矛盾した行動はとりづらくなっていくのです。次の行動を積み重ねれば積み重ねるほど、後からひっくり返すということをしづらくなります。人は過去に下した決断と一貫して行動をとろうとする習性があるのです。
また、相手が検討を途中でやめるには、今まで検討したことを止めるという新しい決断が必要です。交渉が開始した以上、第一歩は踏み出したといえます。
もちろん交渉ですから、金額や条件などによってはまとまらないこともあります。
しかし、示談はまずは会ってもらうことが重要です。
弁護士による示談交渉の際には、決裂した場合の双方のリスクをお互いに納得して話し合うことも重要です。相手の連絡先が分からない場合は、裁判で訴えることもできません。弁護士による示談交渉の過程で相手の住所が把握できた場合は、その意味だけでも大きいと言えます。

エ 秘密保持の合意

不祥事事件について口外しないという取り決めを交わすことによって、後日におけるトラブルを避けることができます。秘密を洩らした場合の違約金条項も取り付けておきたいところ。示談をする際には、必ず弁護士に依頼し、秘密保持契約を盛り込んだ示談書を作成するようにしましょう。
示談成立後に週刊誌が不祥事事件を嗅ぎつけたとしても、当事者が口を閉ざしていれば裏付けが不十分で記事にすることが難しい。たとえ記事にしたとしても具体的なコメントやデータが無い漠然とした疑惑という扱いになるはずで、怪文書扱いで終わる可能性が高いのです。
媒体の種類はたくさんありますが、怪文書扱いをされがちな媒体ほど、実は大きな不祥事事件を報じている可能性もあります。裏がとれるかどうかの問題なのです。

①感情を入れたら負け

激情は冷静な目を曇らせます。感情的になれば冷静な判断はできません。
危機管理・不祥事危機対応における交渉において、自分の考えていることを相手に分からせることは得策ではないのですが、ついやってしまいがちです。
感情を入れたら負けということを逆手に取っているつもりの弁護士が交渉相手となった場合は注意が必要です。
代理人弁護士同士が話す一番の利点は、感情的にならずに冷静に話をすることができることです。しかし相手方代理人弁護士に非礼な人間もいます。
裁判官の前でも大声を上げて威圧的な態度を取るのですが、打ち合わせが終わってエレベーターの前に来ると、幾分かトーンを和らげて和解の可能性を探るのです。何でこの弁護士は人を人とも思わぬ態度で接してきておきながら、お願い事ができるのだろうかと戸惑うばかりですが、「あえて相手を怒らせたうえで、柔和な態度で譲歩を引き出すと成功する」という戦術に基づいて、対立状態を早期に解消しようとする人間心理を利用しようとしたのでしょう。
そうした戦術に引っかかり、感情的になったら負けです。

②メールでのやり取り

スキャンダルにおいて、形に残すことをためらう方は、すぐさまメールを消してしまうことがあります。何か後ろめたい気持ちになるのでしょうか。あるいは証拠隠滅をしているつもりなのかもしれません。 しかし捜査機関はメールを復活することができますので、意味がありません。
それどころか、メールでのやり取りには、有利な証拠が残されていた場合もあります。消してしまっては自力で復活することができない、又は時間がかかってしまうのです。
相手は持っている証拠をこちらが持っていないという状態になり、非常に不利になります。

③主張の書面化を要求

不当要求に対して有効なのが、書面を要求することです。
相手の話に1から10まで付き合う必要は毛頭ありません。1時間の間に何回もなる電話に対応していてはノイローゼになってしまいますし、だからこそ不当要求を通そうと思う方はあなたを疲弊させようとしているのです。
スキャンダルに巻き込まれた場合は、形に残るという理由で書面化することをためらいがちですが、話しても無駄なことが多い状況に陥った場合は、検討するべきです。
これにより、電話対応の無駄な時間が無くなります。
不当な要求を受けているという事実の証拠化、場合により恐喝が成立するという事実の証拠化もできます。これは後々裁判などになった場合に有効です。
気が弱い方がその場で合意をさせられることもなくなります。
証拠化しようとしているこちらの意図が伝わったとしても、慎重に行動するようにという牽制になります。
興奮しやすい相手が書面作成の過程で、冷静に自分の立場を客観視してくれることも期待できるのです。
相手方に書面を要求することで、クレーム騒動が収まることもあります。クレーマー対応に困っていた通販会社のケースです。間違った物が届いたとのクレーマーからの連絡を受け、社長が謝罪をしてサービス品と一緒に送り直したにもかかわらず、誠意が足りないとクレーマーからの要求が止みません。弁護士とともに対応を検討した結果、これ以上の要求には答えられない旨を通知し、間違った物を送付したことに対する損害は回復されているはずなので、もしも新たな損害が発生しているのであれば請求の根拠を書面で回答するように求めました。
クレーマーの主張は言い掛かりでしかないので、請求の根拠を書面で示すことなどできません。執拗に攻め立てることで、対応に辟易した会社からいくらかもらえることを期待しているだけです。いわれのない金額を支払う必要はありません。
結果、クレーマーは何も言ってきませんでした。正月を挟んで毎日、一日中鳴り続けた電話は鳴り止みました。
もっとも、相手の性格をよく把握しておかないと、藪蛇になることもあります。 トラブルの清算を形にしたいという気持ちが強すぎて、裁判で争えば払わなくてもよい金額を払って示談書を交わすことに拘る方がいます。性格的にきちんとした方ほど、その傾向があるでしょうか。
しかしそもそも、全ての事件で書面が締結できるわけではありません。請求をやめさせることが精いっぱいの事件もありますし、書面を作成することではなく現状を維持することがベストな解決方法であることもあります。
中には、交渉すべきではない相手と交渉を無理にしたがために、事態がこじれてしまうこともあります。
効果を考えると、書面を作成するに越したことはないのですが、書面を作成しようとしたがために、寝た子を起こしてしまう恐れもあります。
書面にしてしまう過程で気付かてなくてもよいことまで強調されてしまうのです。
沈静化していた事件で、書面化にこだわってしまうと、裁判を起こされることもあるのです。

④時間をかける

早期の解決は大前提ですが、そもそもの大前提を確認もせずに相手のペースに巻き込まれていませんか。
本当に相手の言っていることは真実なのでしょうか。損害は現実に発生しているのでしょうか。本来、裁判になれば不法行為の成立を立証する責任がある相手方が、全てを証明して初めて、こちらに金銭を賠償する責任が発生します。
任意の交渉で相手が訴訟コストを負担せずに請求できるのであれば、訴訟での請求額よりも少額で決着するのが筋です。
焦って解決することも大切ですが、時間をかけてゆっくり交渉できる場合には、思い切って時間をかける。極端な話、塩漬けにしてしまうのも検討する価値はあります。

⑤うざがられる

交渉を早くまとめたい場合は、相手に面倒を感じてもらうことも一策です。朝一番、昼ごはん時、帰宅前など、一番面倒を感じる時間帯に、相手の場所で弁護士が交渉を始めるのです。
早く終わらせたいと先方が思うことによって、話がまとまりやすくなります。
もちろん、こちらがどうしても話をまとめたい場合、下手に出なければならない場合は、なかなか使えない方法です。
どちらかというとこちらにきちんとした法的根拠のある請求権が立っている場合などに使える方法です。
刑事事件における示談交渉でも同様のことが言えます。
弁護士が検察官を通じて連絡先開示を受け示談交渉をしたところ、法外な請求を受けやむなく示談成立を断念。しかし時間が経って弁護士が検察官に再度お伺いを立てたところ、先方が交渉担当者を変更することを条件に示談交渉再開を受け入れました。時間が経って冷静になり、自分の要求について客観視できるようになったからか、示談は弁護士の提示額でまとまりました。
時間は心の傷も癒しますが、自分のことを客観視する余裕も与えてくれます。危機管理・不祥事危機対応においては、基本的にはスピード勝負で話をまとめた方が良いのですが、時には待ってみることもよい結果をもたらします。

⑥こう着状態を打開するために

交渉が長引いてしまい、そのために不利益な状態が続くことがあります。
精神的に追い込まれることはもちろんのこととして、給与が支払われなかったり、物の引き渡しが受けられなかったり。
その時には「期限を切る」に尽きます。最大限妥協できる数字を具体的に提示し、受け入れられるかどうかの回答を、期限を切って弁護士が要求する方法です。
ただし数字を書面で出す以上、この数字が独り歩きしてしまい、裁判になっても和解条件の最低額にならないようにすることが必要です。
もう一点注意が必要なのは、対案を出された時にもズルズルと付き合わないことです。全くなしのつぶてで連絡すらなかった状態で、相手から書面での回答が来た。クライアントは一歩前進かのように考えているのですが、実は全く逆で、書面の内容は全く新しい話を出してきたり解決済みの内容を蒸し返すものであったりすることがあります。弁護士が就けば通常はこのようなことがないはずなのですが、まれに弁護士がコントロールできないほどの個性を持った相手方の場合もあります。相手がこちらの主張をのめるか否か。のめないなら速やかに訴訟へ移行させるなど思い切りのよさが必要なのです。
個性の強い相手と交渉している場合においては、特に決断力が求められます。
一度締結した和解契約を反故にし、こちらに渡すべき物の引き渡しを拒み始める相手方もいます。保管料名目で新たな金銭の要求をするとともに、取引上で生じた別個の請求を主張して一括で解決しなければ引き渡さないと言い始めるようなケースもあるのです。
たとえ相手方に弁護士がついていても、その弁護士も相手方をコントロールできていない場合には、こちらからの問い合わせに対しても回答が迅速に帰ってきません。回答内容も的を射ないものです。
このような状態に陥ってしまった場合には、弁護士としては訴訟を提起し強制執行することを提案しますが、クライアントが決断してくれないと行動に移すことができません。訴訟の決断に勇気が必要とおっしゃって、もう少し考えさせてほしいと繰り返すばかりのクライアントもいます。結局、相手方は目的物を適切に保管しておらず雨ざらしにしてしまいました。こうなると引き渡しを受けても、クライアントとしては目的を達成することができなくなってしまいます。
早くに決断ができないと、問題はどんどんこじれます。要求を突き付け、回答期限を区切り、ダメであれば訴訟に踏み切るという思い切りが必要なのです。

⑦金額提示のセオリー

示談の時の金額提示の仕方は、大きく分けて2種類あります。
まずは相手に金額を言わせること。
これがセオリーです。交渉事では自分から数字を言わないことは鉄則です。数字を最初に口にした瞬間、交渉のスケールが確定します。100万円単位なのか、数十万円単位なのか、それとも全く支払うつもりがないのか。同時に、これこそが一番大きな意味を持つのですが、妥結額の限度額が決定します。被害者が100万円を口にして始まった示談交渉で、示談金額が99万円になることは通常、ありません。状況が変化したなどの特殊事情があれば別ですが。
自分の方から数字を言い出す場合にも、予算よりも低い数字をスタート地点として妥協点を探ります。といってもできるだけ低い金額を提示すればいいというわけではありません。最初に提示した金額があまりにも低すぎて話にならないということになれば、交渉の話自体が無くなってしまいます。あくまでも精いっぱいの金額を用意した旨を告げるのですから、常識的な相場とかけ離れていては問題です。もっともその後にさらなる宿題をいただくことがあります。金額をさらに引き上げられないかという指摘や、何らかの誠意を示すことを要求されることもあります。例えばボランティアをして欲しい、病院に行って病癖を治療して欲しい、第三者に謝ってほしい、弁護士を通じて定期的な報告が欲しいなどです。
もう一つは、自分の方から精一杯の数字を提示し、駆け引きは一切しないとする方法です。
相手としては受け入れるか否かの二者択一を迫られることになります。
自分にも言い分がある場合には相手に金額を言わせることが適切でしょう。交渉においては、相手に言わせた数字を下げていくのが鉄則です。切羽詰まっていることを悟られてはいけません。自分から示談金額を提示すれば示談したい意図を暴露してしまい足元を見られてしまいます。
話を聞いていくうちに、相手の意図が金額以外の点にあることが判明する場合もあります。接触禁止を求めている場合は、引越をするなどして安心してもらう場合も。
他方、予算に限りがある場合、時間的いとまがない場合、自分の落ち度が大きい場合は、自分の方から精一杯の数字を提示することも検討すべきです。
金額で相手の要求がのめないときは、金額以外の面で相手の要求を満たすことができないかを検討します。一番相手の望んでいることは何か。話を聞く中で、お金が目当てではないということがわかる場合があります。
実は一緒に撮った写真を消去してもらいたいということに対して、強い希望があった。万が一にも顔を合わせることのないよう通勤経路を変えてほしい。自分への支払いではなくボランティア活動に参加して社会に還元してほしいなど。相手の求めるポイントに付き合うことも大切です。
極端な話、相手が約束を破って秘密をばらしてしまったら一巻の終わりなのですから、相手との信頼関係は非常に大切です。一番納得のいく解決をするためにも、時にはイレギュラーとも思える条件を詰めることがあります。

⑧示談金額の測り方

金額交渉は、上げ幅、下げ幅が小刻みになったタイミングが、そろそろ相手の最終回答に近付いているといえます。
例えば100万円要求に対して、弁護士が20万円を提示した。90万と30万円、80万円と40万円と、徐々に距離が詰まったものの、次の70万円要求に対して回答額は43万円だった。となれば、そろそろ相手方の資力としてはギリギリの限界まで達しつつあるということです。
他方でこの構図を利用して、示談金額の吊上げを弁護士が阻止することも考えられます。

⑨その金額でいいのか

目の前においてある100万円と、1年後にもらえる100万円の価値は等価ではありません。市中金利や投資回収などで説明されることではありますが、もっと単純にリスクの問題です。
金額を争っている場合でも、裁判まで争って判決を得ようとするときに、弁護士費用や時間や手間のコストを考えると、さっさと和解をしてしまう方が得策であると言えることもあります。
中には和解で妥結した金額を支払わない相手もいますが、一般的には判決が出た場合よりも支払う可能性が高いのです。
示談の話が煮詰まってきても、即座に締結できなければ心変わりで示談そのものが流れたり、示談金が吊上げられたりします。裁判をすれば全額の請求が認められる可能性もありますが確実ではありませんし、勝訴したとしても相手の資力がなければ回収はできません。
結局、金額を受け入れられるかどうかは、数字だけではなく、回収のタイミングや回収の確実性も含めた総合的判断なのです。
たとえば、不要になったゴルフクラブの会員権を売却する場合でも同じことがいえます。それほど高額の買取価格が付かなくても、即座の現金化を望む場合には、当初の売値で売却することになるでしょう。
しかし売却の2か月後、そのクラブは何と経営破たんしてしまい、会員権は紙くずになってしまった場合には、金額が十分に満足できないとも、すぐさま現金にできるかどうかも重要ということになります。今日の100万円と1年後の100万円は同価値ではないのです。

⑩一括払いが可能なら最後のもうひと押し

金銭面で妥結できそうになった場合でも、支払方法であと一押しが可能な場合があります。たいていの交渉は一括払いが原則ということで進んでいくのですが、支払方法を明示した交渉が行われることはあまりありません。
高額なだけに長期の分割方法でと要求するか、減額と引き換えに一括支払いをのむか。
弁護士と散々交渉をして妥結点を見出した後に、今度は支払方法の点で交渉をしなければいけなくなるわけですから、相手にとっては本当に面倒な気分になります。
分割払いを認めたところで、必ず支払われるとは限りませんし、弁済期にいちいち督促をするのも大変です。であれば多少、金額を妥協してでも一括払いを認めようかともなります。また、トラブルの相手と長々と付き合うことは心地良いものではありません。10年かけて1,000万円という当初の請求額に対し、一括支払いが可能なら800万円で良いと言ってきたケースもありました。
一度、数字の面で合意が達成できているだけに、相手と歩み寄るという流れに流される一貫性の原則が働きます。いまさらテーブルをひっくり返すという面倒を起こすことはかなりのエネルギーを必要とするのです。
このようにして最終的には、一括払いをするのと引き換えの減額を認めるかもしれません。
逆にこちらの弁護士がこのような交渉を持ちかけられた場合には、当初の金額とどの程度の妥協をしなければならないかを冷静に見極める必要があります。そもそも支払方法についても、明確に交渉条件で掲げるべきです。

⑪法外な金額を請求された場合

相手からの要求・提案に対する対応義務はそもそもありません。弁護士が交渉を始めた以上、まとめなければならないかのような錯覚に陥りがちなのですが、即答する必要はないのです。仮に法的に賠償義務があったとしても、裁判で認定されるまでは確固たるものではありません。
謝罪する義務も、面会要求に応じる義務も、示談を締結する義務もありません。義務が無いことを任意でやっているのですから、必要があればいつでも勇気ある撤退をする覚悟をすべきです。
いざとなれば裁判で負けてから支払えばよいと考える勇気も必要です。法外な金額を要求された場合、自分の言い分がある場合は、示談を締結してよいかどうかを弁護士とともに検討すべきでしょう。
示談締結をしない不利益は、せいぜい遅延損害金が発生してくるかどうかの話であって、小さな問題にすぎません。
弁護士が立っている場合は、クライアントに報告する必要があることから、ファックスでもいいので書面で請求をして欲しい旨伝えることで証拠化することもできます。
交渉過程で相手がエキサイトしてきたら、場合によりこちらが警察に被害届を提出することもできます。
傷害の容疑で書類送検されました加害者が、同時に恐喝の被害者でもあったということはよくあります。
法外な要求をされていたことは、後々刑事事件でも民事事件でも有利に働きます。

⑫逆に要求をする

奇策ではありますが、要求を受けている場合に、こちらから逆に要求をするという手段もあり得ます。現状維持という着地点を見越して、現状維持が両者の要求の中間地点になるように調整するのです。
こちらの要求が通るかどうかは問題ではありません。
法的に通らない要求であっても、弁護士が主張することによって相手の要求を下げさせることができるかもしれない。
こちらが要求しなければ、相手の要求がどの程度認められるかの問題になってしまいます。
1000万円を内容証明で請求されている事件で、逆に弁護士から相手に3000万円を請求したというケースがありました。相手は1000万円が取れると思っていたところ、逆に請求をされたので、当初の金を取るという発想が後退してしまいました。それまでは小刻みに金銭を要求され、不動産の所有権を主張されるなど、むしられっぱなしだったのですが、一矢報いることができたのです。
裁判の結果、相手に資力はなかったので勝訴判決は執行できませんでしたが、当初の1000万円の請求は封じることができました。もしも1000万円の請求に対して、こちらが支払う前提でまともに応対していたら、こちらが払う金額がいくらになるかという問題になっていたはずですが、逆に要求したことによって、弁護士が介入した後は一銭も支払うことなく、問題が解決できたのです。
乱交パーティで起きた不幸な出来事でしたが、強制性交の被害を訴えた女性のケースも、逆に要求したことが功を奏したケースといえます。
このケースでは、刑事事件としても告訴が受理されましたが弁護士による弁護活動の結果、不起訴処分に。
民事事件に決戦の場が移り、最高裁まで争いました。刑事事件段階と民事事件段階で、争点は変化しています。刑事事件段階では強制性交が成立するか、女性の意識の明瞭さや男性らの共謀などが争点になりました。民事事件では男性が女性の状態を利用したかどうか、男性側の主観が問題になりました。冤罪で前科が付くのは嫌だというのがクライアントの最も強い要望で、刑事事件が不起訴になったことで民事事件では相手の主張に対して弁護士が全面的に争い、裁判官の和解勧告を断るなどの強気の態度に出ることができました。結果、相手の請求を封じることができました。

(3)裁判を提起

アメリカのような訴訟大国と異なり、日本では裁判はまだまだ特別なことのように考えられています。
裁判所に訴えた側(原告)の主張が正しくて、訴えられた側(被告)はなんとなく悪者のようなイメージを持たれてしまいます。
トラブルが起きた場合に、第一報がどちらの情報筋から出て来たかで、報道の仕方も変わってきます。世間の受け止め方も、途中で当初の見解を改めさせることはなかなか難しいのが通常です。だからこそ、裁判は先に持ち込むべきなのです。
一般に、民事事件で双方言い分がある不祥事事件は、片方に肩入れする報道ができません。また訴訟が係属している間は取材に対して回答しないことも社会的にやむを得ないものとされています。

お金を請求されているときも、支払う義務が無い旨を確認する訴訟をすることができます。いわれのない請求の方法が不当なものであるときは、損害賠償請求をすることもあり得ます。不祥事事件を裁判所に持ち込むことによって、厄介な相手と直接に交渉をする必要もなくなります。
請求を受けていることが原因で、不安で仕方がない、相手が裁判を起こすまで落ち着いた生活が取り戻せないということでは困ります。先手を打って裁判をすることも可能です。
先手必勝といいますが、先に裁判をすることで、自分の主張の正しさを世間に訴える効果もあります。

モンスター・クレーマーの類とは直接交渉をすべきではありません。弁護士をつけてさっさと法廷に引っ張り出すことです。交渉の対象は単純ではありません。責任の有無や金額の算出、支払方法、支払期限、物の引き渡し方法、引き渡し期限、製品の品質確認方法など、決定事項は多岐にわたります。それを話ができない相手と進めることになるので、時間もかかります。話し合いをする度にストレスはたまり、問題は広がります。
酷い話になると和解をしたにもかかわらず、履行してくれない場合があります。その場合でも、いきなり執行することはできません。裁判にかける必要があるのです。
個性の強い相手とは直接交渉をしないためにも、早期に裁判にかけた方が良いのです。

(4)反訴を提起する

不当訴訟を起こされた場合でも、同じ訴訟の手続きを使って反対に訴訟を起こすことができます。
反訴とは、自分が訴えられたときに、同じ訴訟の手続きの中で、逆に訴え返すことで、同じ裁判手続きで双方の主張を審理されます。防戦的な意味ではなく、積極的な攻撃に打って出ることができます。
ただし判決を出してもらうためには、証人尋問などを経る必要があるため、余計に時間がかかるという不利益もあります。
不当訴訟を訴えられ、反訴の提起を検討する場合に、慎重に考えるべきケースもあります。。不当訴訟を訴えた相手の真意が、証人尋問でうっぷんを晴らすという意図であった場合には、あえて反訴を提起せず、あっさりと相手の請求を棄却させる方法を選ぶべきともいえるのです。

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        [ 刑事責任 , 危機管理における法的責任 ]
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          危機管理・不祥事危機対応において、刑事事件化は一番避けたい結果です。民事事件は双方に言い分があることは自然ですし、身柄を拘束されることもありません。裁判を起こすことも、訴状を書いて裁判所に提出すればすぐに実現できることですから、民事裁判を起こされたこと=悪人という見方は一般的にしません。しかし、刑事事件は対国家での事件ですから公的な事項になります。否認をしても悪あがきをしていると思われることもあり、身柄拘束のリスクは高まります。認めれば社会から抹殺されてしまう結果になることもあります。警察も事件…...
          [ 刑事責任 , 危機管理における法的責任 ]
            民事責任とは
            要するにお金の話です。 プライバシーを侵害された、怪我をさせられた、精神的な損害を被った、番組に穴があいた等、損害の種類は多種多様でしょうが、「怪我をする前の健康な状態に戻せ」等と主張することは実現不可能であって無意味です。結局は金銭で解決するほかありません。民法上も金銭賠償を原則とする旨規定されています。 民法722条1項第417条の規定は、不法行為による損害賠償について準用する。【417条】損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定める。 民法723条他人の名誉を毀損し…...
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